杜(MORI)の 四季だより

杜の都、仙台に事務所を構える弁護士法人杜協同の弁護士たちが綴るリレーエッセイ

夏の終わりに

 猛暑も一段落し、朝夕はめっきりと涼しい日が続くようになりました。事務所の前にある公園でも、夏空から降るような蝉時雨に代わって、スイスイと飛び交う赤トンボの姿が見られるようになってきました。「夏の終わり」という言葉には何かもの悲しい響きがあると思いませんか。

 お盆には、ここ数年来の習慣にしたがい浅田次郎の『うらぼんえ』という小説を読み返してみました。直木賞を取った鉄道員(ぽっぽや)という本に収録されている短編でとても心にしみるお話しです。

 主人公のちえ子は医者と結婚している薬剤師なのですが、夫が浮気をして若い愛人との間に子どもができてしまったのです。夫婦の亀裂が深まるさ中にお盆で夫の実家に帰るのですが、夫もその親族も子どものないちえ子に冷たく、離婚を迫ってくるのです。両親のいないちえ子は孤立無援です。そんな時、盛大なお盆の迎え火によって、両親に代わってちえ子を大切に育ててきた亡祖父が現世に戻ってくるのです。そして祖父はちえ子のために必死になって夫やその親族とやり合ってくれるのです。ちえ子の脳裏に、苦労しながらも一所懸命頑張った少女時代、そして心から可愛がってくれた祖父との思い出が甦ってきます。夫らとの話をつけてくれた後、祖父は送り火の夜に精霊流しとともに再び帰っていくのです。ちえ子は一人でも頑張って生きていくことを祖父に誓います。

 私の父が亡くなってからもう6年が経ちました。今年も送り火に代えて、私と妻と母の3人、庭で線香花火をしました。

 もう夏も終わりです。さあ、仕事です。

 (弁護士 佐藤裕一)