読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

杜(MORI)の 四季だより

杜の都、仙台に事務所を構える弁護士法人杜協同の弁護士たちが綴るリレーエッセイ

裁判官のお言葉

 7年ほど前、東京地裁刑事部の山室恵裁判官が、傷害致死罪で起訴された2人の少年に対して実刑判決を言い渡す際に、判決理由に続けて次のような説諭を行ったことが新聞等でも大きく取り上げられました。「唐突だが、君たちは、さだまさしの『償い』という歌を聴いたことがあるだろうか。この歌のせめて歌詞だけでも読めば、なぜ君たちの反省の弁が、人の心を打たないか分かるだろう。」立場上、極めて冷静沈着に法的判断を下すと思われている裁判官が、具体的な歌をあげることによって本音や肉声を伝え、心の中をかいま見せたことが、ある種の驚きと共に市民の共感を呼んだのだと思います。

 この度幻冬舎新書から「裁判官の爆笑お言葉集」という本が出版され、話題をよんでいます。著者の長嶺超輝氏は何度か司法試験に挑戦した経験を持ち、今は裁判ウォッチャーとしてライター業に従事しているのだそうです。表題には「爆笑」という言葉もありますが、冒頭ではさだまさし説諭を紹介し、裁判官の本音や心情が伝わってくる言葉を集めた、なかなかにシリアスな内容を含んだ本になっています。

 冒頭の山室裁判官は児童買春等の罪に問われた現役裁判官(43歳)の裁判を担当し、被告人質問の中で次のような発言をしています。「言葉は悪いが、単なるロリコン、単なるスケベおやじだったのではないか。日本の司法の歴史の中で、とんでもないことをしたというのは分かってますな。」同じ裁判官としての怒りを通り越した、あきれきった思いがこちらにも伝わってきます。山室裁判官は裁判官としての定年を待たずに、一昨年に東京大学法科大学院教授に転身されました。

 覚醒剤取締法違反事件で傍聴に来ていた妻と生後6ヶ月の長男のことをしきりに気にする被告人に対して、釧路地裁帯広支部の渡邉和義裁判官は、「今、この場で子どもを抱きなさい。わが子の顔を見て、二度と覚醒剤を使わないと誓えますか。」と言って廷吏に指示して現実に被告人に子どもを抱かせました。彼はその場に泣き崩れ、動けなくなったそうです。形式にとらわれない感銘力のある訴訟指揮だと思います。

 もっとも福岡地裁の陶山博生裁判官は覚醒剤取締法違反の被告人に対して、次のように言っています。「私があなたに判決するのは3回目です。」同裁判官は福岡中心の転勤が多かったことからこのような偶然が生じたようです。この3回目でも被告人は反省の言葉を語り、もう二度と繰り返さないと誓ったようです。同裁判官はどのような思いでその反省と誓いを聞いたのでしょうか。

 最後は結婚生活30年の熟年夫婦が対立して、妻が離婚請求の裁判を提起した事件を担当した名古屋地裁岡崎支部の宗哲朗裁判官の判決です。「2人して、どこを探しても見つからなかった青い鳥を身近に探すべく、じっくり腰をすえて真剣に気長に話し合うよう、請求を棄却する次第である。」ここには長い結婚生活を送ってきた2人に対する暖かいまなざしと、将来への熱いエールが込められているように感じます。

 司法エリートと思われている裁判官が、具体的な事件の中で、やはり1人の感情を持った人間として悩み、考え、決断している様子をかいま見ることができ、お薦めの一冊です。

  (弁護士 佐藤裕一)

広告を非表示にする