杜(MORI)の 四季だより

杜の都、仙台に事務所を構える弁護士法人杜協同の弁護士たちが綴るリレーエッセイ

風の盆への想い

 8月は夏祭りの季節です。東北3大夏祭りといえば青森ねぶた、秋田竿灯、仙台七夕ということになりますが、今のところ仙台七夕しか見たことがありません。七夕は色とりどりのくす玉や吹き流しは綺麗なのですが、それを見上げて歩くだけで、お祭りに参加しているという実感を持てないのが残念です。但し、8月8日の最終日だけは3日間の祭りの終わりを惜しむといった、独特の寂しい雰囲気があってちょっとお薦めかもしれません。

 いつの日にか是非行ってみたいと思っているのが、越中おわらの風の盆です。富山県富山市八尾町(旧婦負郡八尾町)で毎年9月1日から3日にかけて行なわれているこの祭りは、越中おわら節の哀切感に満ちた旋律にのって、無言の踊り手たちが、坂が多い町の道筋を、熟練の踊りを披露して練り歩くのだそうです。この幻想的な祭りの通奏低音が、胡弓の悲しげな調べです。踊り手は上新町・鏡町・下新町・諏訪町といった情緒あふれる町名の町単位に構成されており、あくまでも静かに踊りを競い合うのです。

 この風の盆を舞台として書かれた名作が直木賞作家高橋治の「風の盆恋歌」です。20年という年月を経て再びめぐり会った男女が、風の盆の間だけは本当に生きている自分を感じられるという悲しい恋を語ってくれます。作中の儚い夢と幻という言葉が風の盆という哀切な祭りにとても似合っています。今年も夏の終わりに読んでみようと思っています。

 (弁護士 佐藤裕一)