杜(MORI)の 四季だより

杜の都、仙台に事務所を構える弁護士法人杜協同の弁護士たちが綴るリレーエッセイ

もうすぐ1年

 昨年3月11日に発生した東日本大震災から、もうすぐ1年が経とうとしています。
色々なところで「この1年を振り返って」というようなことがなされていますが、私達弁護士の関わる分野でも様々な制度・機関が立ち上がっています。

 例えば、いわゆる二重ローン問題の対策として「個人版私的整理ガイドライン」の運用が8月22日に開始されました。また、同じく二重ローンを抱えることになっても会社はこのガイドラインの対象にならないため、そういった会社・事業者に対する債権を買い取って再生を支援すべく、宮城県産業復興機構が12月11日に設置され、株式会社東日本大震災事業者再生支援機構も今年3月に運用を開始する予定ということです。さらに、今回の震災では福島第二原子力発電所によって甚大な放射能被害が生じていますが、このような原子力損害についての解決手段として、原子力損害紛争解決支援センター(いわゆる原発ADR)が設置され、9月1日から受付が開始されています。

 このうち、個人版私的整理ガイドラインは、当初使い勝手が悪くなかなか利用されませんでしたが、約5ヶ月の間で被災地弁護士会や日弁連の働きかけによって運用が大きく改善されました。特に大きいのは、手元に残せる自由財産としての現預金の範囲が(平常時は99万円だったものが)500万円を目安に拡張され、さらにそれとは別に義援金や生活再建支援金等も自由財産として手元に残すことができるようになったことだと思います。この運用改善によって、今後はこのガイドラインによって救済される被災者も増えるものと思います(もちろん、まだ運用改善の余地はあると思っています。)。

 例に挙げた他の二つの制度については、これまでのところ大きな成果を上げているとはいえない状況ですが、今後どのような運用がなされていくかによっては被災者の救済に資する制度になり得るものだと思います。被災地の弁護士として、個々の事件を担当する中で、あるいは弁護士会での会務活動の中で、制度の運用改善に関わっていければと思います。

(弁護士 伊藤 敬文)