杜(MORI)の 四季だより

杜の都、仙台に事務所を構える弁護士法人杜協同の弁護士たちが綴るリレーエッセイ

「最高裁回想録」を読んで

 一昨年まで最高裁判所判事を務められていた藤田宙靖先生が「最高裁回想録-学者判事の七年半」という本を出版されましたので、早速購入して読んでみました。藤田先生は東北大学法学部で平成14年まで行政法の教授を務め、私も学生時代に講義を受けた恩師です。そして奥様はいわずと知れた藤田紀子弁護士。あとがきにも、「七年半を共に歩んでくれた妻紀子への、限りない感謝と共に、」という紀子先生への愛情たっぷりの献辞が捧げられています。

 内容は、最高裁判事就任時のいきさつ、裁判官の日常生活、関与した事件、学者と裁判官の間、裁判以外の公務、退官といった「最高裁判事生活の実態の話」と関与した事件について判決に付した「個別意見」の二本立てになっています。仕事上で意味があるのはもちろん後者ですが、前者の文章に興味を引くものが多くありました。中でも宮中行事の鴨猟への参加の話は秀逸です。最高裁判事全員(みな60歳代)が厳寒の1月末に天皇陛下から鴨猟に招待され、ゴム長、作業服姿という慣れない格好で、小手網(さであみ)を振るって鴨を捕ろうとするものだそうで、その姿を想像すると、とても微笑ましく思いました。鴨猟の後は鴨料理が振る舞われるそうです。以前はその日捕らえた鴨が供されたのだそうですが、環境派からの反対があり、それからは別途飼育されている合鴨を食べるように変わったのだそうです。思わず、北海道の「羊を見ながらジンギスカンを!」というキャッチフレーズを思い浮かべてしまいました。残念ながら鴨料理のお味への言及はありませんでした。

 読んでいて、何度もクスクスと笑いました。ひとつは、就任時の行政判例の新たな形成のためにお力をお借りしたいという人事局長の口説き文句を東大法学部の塩野宏教授(行政法)に伝えたところ、「それは、うまいことを言って人を釣ろうとしているだけで、実際に裁判官になってみたら、商法なんかのつまらない事件ばかりやらされることに決まっているよ。」という反応だったという話です。塩野先生、凄い毒舌です。ここは是非商法の森田果先生に一言コメントをいただきたいところです。

 もう一つは、公務としての海外出張の話です。これには紀子先生が全行程を同伴されて、宙靖先生に負けないくらい鋭い質問を繰り出したりして大活躍されたそうです。ところが、その翌年から何と夫人同伴が取りやめになってしまわれたとのこと。私などは、紀子先生、自由奔放に何かまずいことやったのかなあ、などと思いましたが、宙靖先生は同伴の意義を高く評価して、その取りやめを大変深く嘆いておられました。紀子先生本当に、深く深く愛されていますね。

 最高裁判所のシステムやその内幕に興味がある方も、行政法をもっと学びたいと思う方も、藤田夫妻の睦まじさにあやかりたい方も、必見の書だと思います。

   「最高裁回想録」  Photo

(弁護士 佐藤 裕一)