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杜(MORI)の 四季だより

杜の都、仙台に事務所を構える弁護士法人杜協同の弁護士たちが綴るリレーエッセイ

老人福祉施設セミナーのご報告

 本年2月上旬、当事務所主催で、老人福祉施設の役職員を対象としたセミナーを開催致しました。セミナーは二部構成で、前半部分は関田康慶東北福祉大学教授(東北大学名誉教授)に「老人福祉施設の安全管理体制の構築」をテーマにご講演頂き、後半部分で私が「老人福祉施設内事故をめぐる裁判の傾向」についてお話させて頂きました。

 前半部分の関田教授の話によれば、統計的に見ると、例えば100名の定員の介護施設では年間200件程度のインシデント(事故につながりうる事象。いわゆるヒヤリハット)やアクシデント(事故)が発生しているとのことでした。そして、介護施設におけるこれらのリスクマネジメントのためには、多くの事業会社などで取られている業務改善の手法であるいわゆる「PDCAサイクル」ではなく、リスクの事前評価・予防をより重視した、リスクの事前評価(Assessment)→リスク対応策の計画(Planning)→対応策(Do)→対応策・プロセスの評価・事後評価(Evaluation)→改善の行動(Action)という「APDEAリスクマネジメントサイクル」が必要であるとのことでした。
 どの施設でもギリギリの体制の中で日々の業務に追われている状況と思われますが、職員全体でインシデント・アクシデントに対する認識・定義を共有し、発生したインシデント・アクシデントの報告をレベルに応じて分類してデータを蓄積・分析し、事案ごとのその場凌ぎの対応に留まらず安全委員会を設置したうえで体系的に議論をし、主要なリスク要因を発見しその対策を施設全体の運営改善につなげることが安全管理体制の整備に不可欠であることを、具体的事例に則してお話頂きました。

 後半部分では、私から、前提として介護事故における法的責任について一般的な考え方の説明をしたうえで、介護事故で上位3つの事故類型とされる転倒事故、転落事故、誤嚥事故について、裁判例を紹介しました。
介護事故に関して、公刊されている裁判例の件数自体はそれほど多くはありませんが、その中では施設側の責任を広く認める傾向があると言えます(特に転倒事故や転落事故)。法的責任ありとされるのは、事故が発生するリスクを施設側が予見し、事前ないしその当時に対策を取ることで回避することが可能であったにもかかわらず、これを怠ったと判断される場合です。この点で、裁判例の中でも目立ったのは、事故(アクシデント)が発生する以前に、当該利用者について同じようなインシデントが発生していたという事案が散見されることです。リスクの事前評価をしっかりと行うことはもちろん重要ですが、発生してしまったインシデントを見逃さず事後評価し改善につなげるということの重要性が分かると思います。
 関田先生の講演でもお話のあったとおり介護施設内での事故自体は日々起きています(仙台市が公表している、骨折等の一定水準以上の重大事故の事故報告件数は平成24年だけで208件)。ただし、事前・事後の対応がしっかりしていれば、多くは紛争に発展せず、仮に紛争に発展し裁判になったとしても施設側に責任ありと判断されることはありません。施設や介護職員を取り巻く状況に照らしても、施設側にとって厳しい判断をする傾向にある裁判例についての評価には議論のあるところだと思います。しかし、各施設においても、いったん事故が起き紛争に発展してしまった場合にはこのような判断枠組みで責任の有無を判断されるということを認識した上で、安全管理体制を整備することは重要だと思います。

 今回のセミナーでは、各団体から後援を頂いたこともあり、県内各地の施設から、お忙しい中にもかかわらず沢山の出席を頂きました。この場をお借りしてお礼を申し上げます。今回のセミナーが、ご参加頂いた各施設において、今後の運営にあたっての助力となれば幸いです。

  (弁護士 三橋要一郎)

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