杜(MORI)の 四季だより

杜の都、仙台に事務所を構える弁護士法人杜協同の弁護士たちが綴るリレーエッセイ

皇族の方々とのお目通り

 昨年12月に当事務所に客員弁護士として入所いたしました。司法修習生時代に阿部長先生の下で弁護修習をさせていただき,司法修習が終わった後,昨年8月まで40年にわたり裁判官をしていましたが,裁判官と弁護士では同じ法曹といっても仕事のやり方や心構えが大きく異なっていますので,戸惑いながらも,少しずつ弁護士業のイロハを勉強しているところです。経歴や趣味,抱負等は「弁護士紹介」に記載のとおりですので,よろしくお願いいたします。
 裁判官として最後は高松高裁で長官を務めさせていただきましたが,高裁長官はいわゆる認証官で,内閣による任命を天皇が認証することになっていることもあって,皇族の方々とも何度かお目通りの機会がありました。あまり知られていない事柄かと思いますので,今回はその様子などをご紹介させていただきます。
 まず,任命の際の認証式ですが,皇居内で,天皇陛下の面前で内閣の代表者(日程等の関係で必ずしも総理大臣ではなく,私の時は法務大臣でした。)から辞令をいただきます。辞令には天皇陛下が「明仁」と自署し,その名下に御璽が押捺されていますが,その署名押印は認証式の直前に行われ,墨や朱印が乾くまで千草の間で待機した後,松の間に移って認証式が行われます。大臣から受け取った辞令を捧げ持って天皇陛下の御前に進み,そこで陛下から一言お声をかけられますが,その際,深く礼をしたままで,陛下からの言葉に返答してはいけない,無言で3歩後退するなどの決まりがあり,陛下がお出ましになる本番前にリハーサルも行われました。過去には,天皇陛下からのお言葉に思わず「しっかり務めます」と応えてしまった方もいたと聞きました。認証式の後,千鳥の間で「新任御挨拶 高等裁判所長官 田村幸一」と記帳をしますが,そこに置いてある毛筆は本格的で一般の人には使い勝手が悪いので,自分の使い慣れた筆(筆ペンでもよい)を持参していくのが慣例となっているようでして,私も判決の署名などで普段使っていた筆ペンを持参して記帳しました。事前に自宅で記帳の練習はしていったのですが,当日は緊張で手が震え,もともと下手な字が一層乱れてしまいました。認証式の服装は,モーニングコート着用で,胸ポケットにハンカチを入れ,黒色のチョッキ,黒とグレーの縞模様のズボン,黒系統の靴下,白色のシャツ,シルバーグレーのネクタイとなっており,ベルトではなくズボンつりを使用し,靴は紐付きが正式ということでした。
 12月23日には天皇誕生日宴会の儀に出席させていただきました。これには三権の長のほか,認証官,省庁事務次官,国会議員,知事らが皇居に招かれ(配偶者も招かれる),国賓の晩餐会などで使われる豊明殿で行われます。皇太子ご一家,秋篠宮ご一家など,皇族の方が全員参集され(イギリス留学中の佳子様はお見えになりませんでした。),まず天皇からお言葉があった後,総理大臣が祝詞を述べ,乾杯をして宴が始まります。その後は,普通の宴会とさほど変わらず,席が近い者同士で談笑しながら飲食をしますが,時間は30分程度で終わるので,尾頭付きの鯛などたくさんの料理は食べきれず,宴会終了後係の方が折り詰めにしてくれて,菊の御紋が入った杯とともに持ち帰ります。服装は,認証式と同じですが(もっとも認証式と異なり,紋付羽織袴でもよく,そういう人もいました。),女性はロングドレスか,デイドレス,白襟紋付という決まりになっていて,改めて新調したり,レンタルしたりという人が多いようです。
 天皇誕生日から1週間すると正月で,新年祝賀の儀にも出席させていただきました。ご承知のように一般参賀は1月2日に行われますが,元日には天皇誕生日とほぼ同様の方々が皇居に招かれて(配偶者も),新年祝賀の儀が行われます。総理大臣,国務大臣等の内閣の方々が梅の間に,両院議長,議員等の国会の方々が松の間に,最高裁長官,最高裁判事,高裁長官等の裁判所の者が竹の間にそれぞれ参列し,天皇陛下以下皇族全員がそれぞれの間を回って各代表者からの新年の祝詞を受けられ,陛下からもお言葉をいただきます。それが終わると参列者は豊明殿に移って祝酒を賜りますが,天皇誕生日の際とは異なり,皇族の方々とご一緒ではなく,参列者の皆さんはお膳の料理に箸を付ける間もなく折り詰めにしていただいて早々に退出しました。皇族の方々は,その後も省庁事務次官,知事,地方議会議長,各国外交使節団等からそれぞれ祝詞を受けられるということで,宮内庁の方のお話によりますと,天皇陛下の元日は,朝早くから神道に則った儀式等も続き,1年で一番多忙な日だということでした。
 3月には,天皇陛下と最高裁判事及び高裁長官との午さん会が皇居で行われました。最高裁判事と高裁長官が1列に整列し,最高裁長官から一人一人を天皇陛下に紹介した上で食事のテーブルに着き,フランス料理のコースが振る舞われました。皇族からは天皇陛下の他に秋篠宮殿下が出席されました。長い長方形のテーブルですので食事の間は親しくお話しをすることができませんでしたが,食事の後に別室で行われたコーヒータイムでは,コーヒーを手に持って自由に動き,歓談することができまして,私も天皇陛下と東日本大震災の時の話を,秋篠宮殿下とはテニスの話をしました。お二人とも本当に気さくに会話をしてくださいまして感激しました。従前は,この機会に高裁長官から天皇陛下に,各地方の話題などをお話しする「言上」という正式行事が行われていましたが,陛下の高齢化による公務軽減策の一つとして最近は行われていません。
 4月には春の園遊会に配偶者とともに招かれました。東宮御所などがある赤坂御苑で行われますが,御苑内の数か所にテントが設けられて,ジンギスカンや焼き鳥,サンドイッチなどが用意され,御苑内を散策する合間に軽い食事ができるようになっています。園遊会には,政界,官界の他に,叙勲された方をはじめ民間からも多くの人が招かれますが,その頃に話題になった著名人も招かれます。私が出席した園遊会には,2月の冬季オリンピックで活躍した高梨さんや小平さん,高木姉妹などがおりましたし,フィギアスケートの羽生さんは,招待者の中でも一番人気で多くの人から記念写真を求められていました。国民栄誉賞を受賞したばかりの将棋の羽生さん,囲碁の井山さんも招かれておりまして,囲碁好きの私としては,憧れの井山さんの写真が素晴らしい記念になりました。皇族の方々は,天皇陛下を先頭にして園内の定められたルートを回り,道の両端に並んだ招待者と会話をされますが,著名人が並んでいる場所にはテレビカメラがたくさん設置され,その会話の様子がよく報道されていることはご承知のとおりです。園遊会の服装は背広でもよく,女性は訪問着でもよいとされています。
 以上,私が皇族の方々とお目通りができた機会をご紹介させていただきました。写真の掲載もあればもっと興味深くお読みいただけると思いますが,皇族の方々や皇居内を撮影することは禁止されておりますので,その点はご了承ください。
(弁護士 田村幸一)

「Sパッド」使用体験記

 あけましておめでとうございます。

 昨年のはじめに、某有名プロサッカー選手などがCMに出ており話題にもなった筋トレマシン「Sパッド」(仮名)を購入しました。いわゆるEMSトレーニング・ギア(Electric Muscle Stimulation:電気筋肉刺激の略)で、自分で能動的に運動しなくとも、身体につけた機器の電気刺激により筋肉を鍛えることができるというものです。

小さい頃から身体の線が細いことが自分にとって大きなコンプレックスの1つであり、いろいろな筋トレを試しては挫折してきました。また最近も、週末のサーフィンあるいはスノーボードのために平日にはできるだけトレーニングをしようと思い、いろいろなギア・道具に手を出しては、いずれも長続きせずに終わってきました。今回も、他力で手楽に鍛えられるなら続けられるのではと邪な思いから、とりあえず腹筋用と腕・脚用を買ってみたのです。
 さすが最近のトレーニング機器はハイテクで、スマホと連携しトレーニング内容を設定したり、トレーニングの結果や履歴を確認することもできます。そして、丁寧にも毎日夜8時になるとスマホに「今日もトレーニングしましょう」と通知が来ます。これならさすがに続けられるだろうと思わせてくれます。
 実際に利用してみると、自分は筋肉だけでなく脂肪もあまりなく電気刺激が直接的に伝わるのか、それほど運動強度を上げなくともかなりビクビクときます。これを1回のトレーニングにつき23分間続けることになります。1週間くらい続けると、なんとなく腹筋は引き締まり、腕は太くなった気もします。サーフィンのパドルも心なしか力強くなり、テイクオフが早くなった気もしました。
 ただ、腕のトレーニングをする際には、電気刺激のために身体を自由に動かすことができず、本を読んだりインターネットをすることにも支障がでます。テレビを見る習慣もないので、手持ち無沙汰です。

 それから1年間が経過しました。やはり、私の「Sパッド」は長いこと使われずに、充電も切れた状態のまま、部屋の片隅で埃をかぶっていました。スマホには今でも律儀に毎日「今日もトレーニングしましょう」と通知が来ますが、意識的なのか無意識なのか見ないことにしていたところ、先日、遂に「100日ぶりにトレーニングしましょう」という通知が届き驚きました(怠け癖のある人も想定してアプリを作っているんですね。)。購入から1年が経過した今、スマホに記録されている使用履歴を振り返ってみると、最初の2ヶ月は週5回程度は使用していたのが、半年経つとその頻度は月に2〜3回となり、その後は長く埃をかぶっていたのです。
 どんなに素晴らしい機器があっても、やはりそれを使ってトレーニングを続けようという意思の強さが不可欠であり、一番重要なのだと改めて思い知らされました。

 2年前のお正月にもこのエッセイで健康について書きましたが、今年はついに40歳になります。新年にあたり、まずは自分自身の心を強くもつことが不可欠であると決意を新たにし、さっそく「Sパッド」の充電をすることにしました。
(弁護士 三橋要一郎)