杜(MORI)の 四季だより

杜の都、仙台に事務所を構える弁護士法人杜協同の弁護士たちが綴るリレーエッセイ

法の情け

 検事というと怖いものの代名詞の様に思われている。事実警察を指揮してあるいは独自に犯罪を捜査して悪と闘うわけだから、悪者にとっては怖い存在に違いない。しかし最近私の手がけた事件でこんなことがあった。スーパーで1000円程度の品物を万引して店を出ようとした男が、警備員に呼び止められた。腕を捕まえられた彼は咄嗟に腕を振りほどき逃走したがその際運悪く彼のヒジが警備員の肋骨に当り、骨折という傷害を与えてしまった。逮捕された彼の罪名は事後強盗に当たるとして強盗致傷罪。無期又は7年以上の懲役という重罪である。彼は普段は真面目なサラリーマンで妻子もあり、今迄刑事事件を起こしたこともない。所謂初犯である。

 しかし、裁判になると酌量減軽しても懲役3年6ヶ月までだから刑の執行猶予は無理と言うことになる。結果論だが捕まったとき素直に謝れば良かったのである。それから妻や親戚、友人達が何とか彼を助けようと大変な努力をして被害者の警備員、警備会社と示談をし、勤務先の社長にも嘆願書を書いて貰って、私は勾留期限ぎりぎりにこれら書類を検察庁に持ち込んだ。

 結果は、在庁略式で罰金50万円、担当検事は事件全般と日頃の彼の行状等を考慮して傷害罪だけにとどめたのである。

 法の情けというものであろう。

 (弁護士 阿部 長)