杜(MORI)の 四季だより

杜の都、仙台に事務所を構える弁護士法人杜協同の弁護士たちが綴るリレーエッセイ

「明日への遺言」を見て

 だいぶ話題になった映画ですから、ごらんになった方も多いでしょう。東京裁判のころ、私はもう中学生でしたからリアル・タイムで知っていないとおかしいのですが、誠にお恥ずかしいことにほとんど何も覚えていません。ただ当時は映画にかならずニュース映画が付いており、東京裁判もその都度報道されましたが、いつも同じ音楽で、その暗い荘重なメロデイーは記憶に残っています。あとで、これが「トッカータとフーガ」(バッハ)という曲であると知りました。

 ご存知のように、戦争犯罪人のうちいわゆるA級は東京、市ヶ谷の特別軍事法廷で審理されましたが、本編の主人公岡田資中将及び部下はB,C級で横浜の法廷で裁かれました。罪状は、岡田中将が、東海軍管区指令官として、降下して捕らえられたB29の搭乗員38名の処刑を決め、部下に(斬首)処刑させたことが、捕虜の虐待として国際法に反するというものでした。

 岡田中将側の主張は、B29による東海地方の爆撃は、軍事目標に限ったものではなく、商店、一般住宅地などをも標的とした無差別爆撃であって国際法に反し許されないから、降下搭乗員は「捕虜」ではなく「戦争犯罪人」であって、日本の「軍律」に従ってこれを処刑することは正当である、とする。これに対しアメリカ側は、無差別爆撃が国際法違反かという論点には立ち入らず(むしろ立ち入ることを許さず)、ただ日本の「軍律」に従った裁判ないしその執行が国際法的に違法であるから、「捕虜」の虐待に当たるとしたようです。

 裁判長も後ろめたさを感じてか、被告を「あれは処刑ではなく、報復だったのではないか」と誘導しようとする(「報復」は、戦時国際法では認められた行為)。被告がこれに応じていれば、少なくとも絞首刑は免れたでしょう。しかし岡田中将は、断固としてこれを拒み絞首刑の判決を受けるのです。

 さて1998年のローマ条約によって設立が認められた国際刑事裁判所(ICC)は、2002年に条約が発効し、昨年日本も締約国となりました。ICCの管轄に入るのは、「集団殺害罪」、「人道に対する罪」、「戦争犯罪」、「侵略の罪」の四つです(最後のものは、「侵略」の定義について合意ができていないのでさしあたり適用されない)。もしICCが当時あったとしたら、岡田中将の罪状は「戦争犯罪」にあたるかもしれない。アメリカの無差別爆撃はどうでしょうか。

 (弁護士 阿部純二)