杜(MORI)の 四季だより

杜の都、仙台に事務所を構える弁護士法人杜協同の弁護士たちが綴るリレーエッセイ

むかつく

 裁判員制度が5月21日に施行されて半年が経過した。仙台地裁3件目の裁判員裁判がさる11月19日に開かれ、被告人質問で50代の男性裁判員が「むかつく」と感情をあらわにした発言をしたとして話題になった。

 「むかつく」とは広辞苑では①むかむかする、吐き気を催す②癪に障って腹が立つこと、と説明されている。私どもの年代では主として①の意味で使用され、滅多に使わない強い言葉である。

 しかし最近では、特に若い人の間ではごく簡単に②よりも軽く使われているようである。それでも法廷という厳粛な場で使用されたことから、裁判長が「その辺で」と制止したのは適切な措置であったと思われる。

 事案は少女への強姦致傷事件で求刑懲役10年に対し、翌20日の判決では懲役9年10月が言い渡された。判決後の記者会見で男性裁判員は、裁判長の制止発言について「冷静さを取り戻せてよかった」、「あの発言は裁判員制度の特徴なのかもしれないが、やはり法廷で感情を出しては行けませんね」と反省していたという。一方、ほかの裁判員からは「よくぞ言ってくれたと思った」、「プロの裁判官では言えない」と好意的な発言もあったという。

 一般的に裁判員制度になって刑が重くなったと言われている。共同通信の半年間11月20日までの集計では全国38地裁(支部を含む)71件の被告人72人は全員有罪。うち58人が実刑。執行猶予は14人(うち11人に保護付)で、やや重いように思われる。しかし求刑どおりの実刑は5件で、ほかは求刑の79%減、つまり「求刑の8掛け」と言われる従来の量刑相場と変わっていないという。37人の判決が確定し、13人が控訴中というが、検察官控訴はない。控訴審の審理とともに、これからの裁判員裁判を注目したい。

 (弁護士 阿部 長)