杜(MORI)の 四季だより

杜の都、仙台に事務所を構える弁護士法人杜協同の弁護士たちが綴るリレーエッセイ

金融円滑化法の終了と事業再生

 今年の1月下旬、東京で開催された、ある研究・出版団体主催の中小企業の事業再生に関する研修会に参加してきました。この研修会は5日間連続の講座で、1日目から3日目までは、中小企業金融の実態、事業再生の法制度・税制度についての講義、4日目と5日目は具体的な事例における事業再生計画案の検討というケーススタディでした。1週間まるまる仕事に穴を空けて、こういった外部のセミナー等に参加すること自体あまりできることでもありませんし、なにより、この研修会では弁護士だけでなく、事業再生に関わるコンサルタントや金融機関の方なども多数参加されており、最先端の議論や様々な分野の方の視点にも触れることができ、刺激を受けて帰ってきました。

 先日、中小企業金融円滑化法が今年の3月末をもって期限を迎え、終了することが正式に決まりました。この円滑化法は、リーマンショックを契機とした不況を受けて平成21年冬に制定された、中小企業を借り主とする貸付の返済条件の緩和を金融機関に求めた時限立法であり、震災の影響もありこれまで二度延長されてきました。

 この円滑化法により金融機関は企業に対して返済猶予などの対策を積極的にとるよう求められ、その結果、全国の中小企業約400万社の約1割が同法による金融支援を受けたそうです。そのため、一時は円滑化法の終了に伴い中小企業の倒産が急増するのではないかとも言われていましたが、金融庁は、同法の期限到来後も金融機関への監督のスタンスは変わらない旨を明確に示しており、貸し剥がし等の急激な変化はないと思われます。

 他方で、同法は本来倒産してもやむを得ない企業まで延命させただけだとの批判もありました。確かに、一律・無条件に返済条件を緩和することにより中小企業の中には抜本的な解決を先延ばししてきたところもあるでしょうし、また、返済猶予・繰り延べだけでは、窮境に追い込まれた企業の再生にとって根本的な解決にはならないこともままあります。キラッと光る強みを持っており、単年度の営業利益は出している会社でも、その事業規模に合わない借入残高とその金利負担が本体事業の重荷となっている場合も多く、債権放棄を含めた抜本的な事業再生も検討する必要もあると思います。債権放棄の場合には一定の経営者責任、株主責任の明確化は求められますが、責任の取り方はいろいろありますし、なによりも事業自体の継続、雇用の維持は何にも代え難いものです。他方、事業規模等からして本来返し得ない貸付債権の一部放棄やサービサーへの「時価」での売却(いわゆる不良債権の処理)は事業者のみならず、倒産の場合と比べて回収金額は大きくなり、資金の固定化も防げるなど金融機関にとってもメリットがあるのです。

 政府でも円滑化法の終了に向けて、各都道府県にある「中小企業再生支援協議会」という事業再生を支援する枠組みの機能を強化し、今年度は従来の約10倍にあたる年間3000件の再生計画の策定を支援する予定だそうです。この再生支援協議会においては、現在単年度赤字の会社でも3年での黒字転換、実質債務超過の5~10年での解消、有利子負債CF比率10~20年程度といった合理的な改善計画が建てることができれば、債権放棄を含めた金融支援が受けられるよう事業者をバックアップし、金融機関を説得するとのことです。

 円滑化法終了にあたり心配な事業者の方は、最終的に行き詰まり法的手続きを検討せざるを得なくなる前に、再生支援協議会を利用しての事業再生(任意整理)を一度検討し相談されることをお勧めします。

(弁護士 三橋 要一郎)