杜(MORI)の 四季だより

杜の都、仙台に事務所を構える弁護士法人杜協同の弁護士たちが綴るリレーエッセイ

うっかりでは済まない軽犯罪法

 みなさんは「軽犯罪法」という法律をご存知でしょうか。軽犯罪法は比較的軽微な行為について取り締まる法律であり、現行法では罰則の対象となる行為として、33の行為が挙げられております。罰則は拘留または科料となっています。
 本コラムでは、軽犯罪法で挙げられている各行為のうち、比較的社会生活やニュース等で散見されがちな5つの行為について触れていこうと思います。

① 軽犯罪法1条四号  浮浪の罪

「生計の途がないのに、働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの」がこれに当たります。いわゆる「ホームレス」の方は、本号に当たる可能性があります。なお、同法1条二十二号には、「こじきの罪」があります。同法1条四号の浮浪行為を行い、かつ、こじき行為を行った場合は、四号と二十二号の双方に該当する可能性が出てくるといえます。

② 軽犯罪法1条十四号  静穏妨害の罪

「公務員の制止をきかずに、人声、楽器、ラジオなどの音を異常に大きく出して静穏を害し近隣に迷惑をかけた者」がこれに当たります。本号では、「公務員」による制止があることが必要とされていますが、これは主に近隣住民からの通報により現場に駆けつけた警察官からの注意があった場合が想定されるでしょう。また、音が「異常に」大きいことが必要とされるところ、ここでの「異常に」とは、決まった基準があるというよりは寧ろ、社会通念によって決められるものと考えられます。したがって、自分では大した音ではないと考えていても、社会通念からすれば非常識な大音量と考えられる場合は、本号に当たる可能性がある点に留意すべきです。
 なお、各都道府県に騒音に関する条例がある場合は、別途そちらで処罰される可能性があります。いずれにしても深夜の大音量には気をつけましょう。

③ 軽犯罪法1条十六号  虚構申告の罪

  「虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者」がこれに当たります。とあるニュースによると、「仕事に行きたくないので『路上で刺された』と虚偽の110番通報をした」という事件がかつてあったようですが、このような事件は本号に該当する可能性があるといえます。また、虚偽の申告行為が相手方の業務を妨害するほどの悪質なものと判断される場合は、刑法上の業務妨害罪に該当する可能性もあり、その場合は、より刑罰が重くなる可能性が大きいです。
 いずれにしても、犯罪事実等が無いのに110番通報をすることは、絶対にやめましょう。

④ 軽犯罪法1条二十号 身体露出の罪

  「公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者」がこれに当たります。「しり」や「もも」はともかくとして、「その他身体の一部」が何を指すのかは必ずしも明らかでなく、社会通念によって変わり得る面はあるかもしれませんが、一般的には、通常人が衣服等で隠している部分を指すものと思われます。もっとも、仮に性器等を出した場合は、刑法上の公然わいせつ罪に該当する可能性があり、その場合は、より刑罰が重くなってしまうでしょう。
 お酒を飲んだ際に脱ぐ癖のある方においては、十分ご注意下さい。

⑤ 軽犯罪法1条二十六号 排泄等の罪

「街路又は公園その他公衆の集合する場所で、たんつばを吐き、又は大小便をし、若しくはこれをさせた者」がこれに当たります。「街路」については、いわゆる市街地の道路、すなわち、人家の建ち並んでいる地帯の道路をいうとする見解があります(法務省刑事局軽犯罪法研究会「軽犯罪法101問」(立花書房、1995年)。また、「その他公衆の集合する場所」については、「性質上多数の人が集合するような場所」と解している判例があります(大阪高裁平成29年2月7日判決など)。これらの場所で上記行為をした場合は本号に当たります。
 お酒を飲んだ帰りの道中などでつい、立小便をしてしまう方もいるかもしれません。また、外で無意識にたんつばを吐く癖のある方もいるかもしれません。このような方については、要注意となります。

  いかがだったでしょうか。もちろん、これらの行為が発覚したからといって必ず処罰されるとは限りませんが、心当たりのある行為をしたことがあるという方におかれましては、今後は十分注意するに越した方が良いかもしれません。
(弁護士 赤石圭裕)