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杜(MORI)の 四季だより

杜の都、仙台に事務所を構える弁護士法人杜協同の弁護士たちが綴るリレーエッセイ

希望格差社会?

弁護士 阿部 純二

 窓の外は春うらら、桜花爛漫の季節ですが、昨年10月のアメリカの金融破綻いらい日本を襲っているすさまじい不況と失業の嵐を考えると、花見に浮かれる気持ちにもなれません。おそまきながら山田昌弘教授の「新平等社会」(文春文庫)を読みました。この本は前著「希望格差社会」などの内容を取り込んでまとめてあるので、便利です。もうみなさんご存知かもしれませんが、こんなことが書いてあります。

  1. 日本は(他の先進国も)、ニューエコノミー(ポスト産業化社会)の時代に入っており、そこでは基本的に「豊かさ」が達成されているので、個別的で感覚的な欲求を満たすような新しい産業(製品)が求められる一方、従来のありきたりの商品の価格は下がる傾向にある。
  2. 労働者は、こうした新しい商品を産み出す能力(当然ITスキルやグローバル化に対応できる能力なども含まれる)のある専門的中核労働者と定型的作業労働者に二極化される。前者は生産性の高い労働であり、後者は生産性の低い労働である。この二つのタイプの労働者は、待遇がスタート・ラインから違い、生涯収入では大きな差がつく。
  3. 第1のタイプの職はふえてはいるが、多数にはならない。すなわちニューエコノミーは構造的に定型的作業労働者の数を増大させる。かつて普通だった「スキルアップ型の職」(就職後、OJTなどでスキルアップの機会があたえられている職)はだんだん減少し、定型的作業労働者に組みこまれつつある。
  4. かつては(高等)教育を受ければそれなりの職に進めるというパイプラインができていたが、今はこのパイプラインに漏れが生じている。勉強しても就職できるという保証はなく、これが若者の勉学意欲を減少させている。
  5. 第1のタイプの職に就いている人を別とすると、若年男性の収入はリスク化する傾向にあり、結婚したくともできない人がふえて、いわゆる「結婚格差」を生じさせている。

 この分析が大局的にみて正しいことは、われわれの身のまわりを振り返ってもうなずけます。フリーター(の増加)も派遣業の拡大も、不況下での「派遣切り」も秋葉原事件も「就活」も「婚活」もみな上の図式に包括される現象なのでしょう。高度経済成長期のように、誰もが右肩上がりで収入のふえる時代はおわりました。不況はいずれ克服されるでしょうが、不況がおわっても、(実質的)平等をいかに実現するかが日本社会の課題として残ることは間違いありません。

 (弁護士 阿部純二)

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